第9話 通じない心
【 至高の魔女2】
皇帝陛下から城内に滞在する事を許された俺達はようやくゆっくり出来る部屋に通された。
「ベルナルド殿下がまさかお妃様をお連れでお戻りになるとは・・・・じいは嬉しゅうございます。
もちろんお部屋はお留守の間もこのじいがちゃんと管理しておりましたゆえ、心配はいりませんぞ。」
エドバンはこの部屋に案内する間もただひたすらに嬉しそうな表情を崩さず、いくら人違いである事を説明しても聞く耳を持たなかった。
「お妃様におきましては、必要な物をすぐにご用意致しますので今しばらくお待ちを・・・
久しぶりにじいは大忙しでございます。では準備にとりかかりますのでこれにて失礼いたします。」
エドバンはそう言うと部屋を後にした。
「参ったなぁ・・・あのエドバンってご老人は我々の言う事をまったく信じませんね。」
アルクはエドバンの頑なまでの態度に呆れていた。
「ご老人ってだいたいが頑固なものよ。それより私はさっそく侍女達の仲間入りをしていろいろ情報を得ようと思うのよ。」
ケイトはまず情報収集が大事であると判断したのだ。もちろんアルクも同様であった。
「さすがケイトさんですね。私もさっそく護衛として衛兵達と接触してみますよ。」
この時代の事は、人々の暮らし振りや城内の人間関係などなんでもいいから知っておく事は必ず役立つはずだ。
チラリとルーチェとルドルフの二人を様子を窺いながらアルクとケイトは部屋を出て行った。
キースは定位置のドアの前での警備をし、ミーアはケイトに付いて行った。
サリーはまた周辺の様子を調べる為に窓から飛び立った。
部屋に残されたルーチェとルドルフの仲はまだギクシャクとしたままだ。
俺もどうやらおじゃまなようだが・・・
こんな時、俺だけが自分がどう動くべきか判断できないのが我ながら情けない。
しかたないので部屋を出てキースの傍に行く。
二人っきりになった部屋の空気は重いものだった。
ルドルフはルーチェと向き合った。
頑なに俯いて顔を上げないルーチェが遠い存在に感じた。
自分はただ温かい空間に包まれていたかった。それはルーチェの存在そのものだ。
それ以外でそんな空間など存在はしなかった。だからこそ変わらぬルーチェでいて欲しかった。
2年の空白は長い。自分の知らないところでルーチェは変わってしまったのか。
いやそんなはずはない。再び出会った時は変わらぬルーチェを確信したはずだ。
では変えてしまったのは自分なのか?守りたい!そう願ったはずの自分なのに・・・・
「ルーチェ・・・それほど私との婚礼が嫌だったのか?私の思いはただの押しつけであったのならすまない。
他に好きな人がいたのだとしたらなおさらの事だ。そんな事も確かめもせずに・・・・」
まったく的外れな事を言い出したルドルフに驚いて初めて顔をあげたルーチェだった。
「他に好きな人ですって?」
「ああ。だとしても今までのように自由な生活は望めはしないだろう。今後は・・・」
「それは私が至高の魔女だからなのね。だからルドは・・・」
「せめて形だけでも私の正妃になれば、城内だけは今まで通り自由に過ごす事ができるし・・・
なんなら正妃の務めも放棄してもかまわない。それは私の方でなんとでもできるから。」
どっちにしても自由がないならばとルドルフにしてみれば最大限の譲歩であった。
王妃教育の講習が辛ければやらなくてもいい、王妃として堅苦しい公式の場にも出なくてもいいとまで思ったからだ。
「それってやっぱり政略結婚じゃないの!」
みごとに逆効果であった。
形だけでも至高の魔女が正妃ならばそれでいいのね。私なんかなにも必要でないって言うの?
やっぱりこの人は私が至高の魔女だから望んだにすぎないのだ。
思いをの押しつけたですって?そこに思いがあったと言うのだろうか・・・・
2年もの間手紙ひとつ寄こす事もしなかったのに。
突然迎えが来て再会したものの、やはりそれっきり・・・
そうよ。アルクさんの様に時間を割いてでも会いに来てはくれなかったじゃないの。
一時でも本気で王家の仕来たりやダンスの講習を受けていた私の気持ちなんてちっともわかってはいない。
では私の存在はいったいなんなのよっ!人形のようにお飾りでいいなんてっ!
やっぱり私など愛されてはいない。あくまで至高の魔女が必要なのだ。
「政略結婚って・・・いったい・・どういうことだよっ?」
最大限に譲歩したというのに返ってきたルーチェの言葉にルドルフは眉を顰めた。
一筋の可能性すら断たれた気がしたルーチェの心はますます殻に閉じこもってしまった。
「ルドなんてっ!大きらいっ!」
「・・・・・・!」
面と向かって告げられた大嫌い発言に明らかに大きな打撃を受けたルドルフだった。
『ところでキースは耳が良いから中の話はみんな聞こえてるんだろ。二人はどうしてる?もう仲直りした頃かな?』
俺はキースに問いかけた。
『ますますややこしい事になってる・・・更に険悪になってるのは間違いないぞ。』
『・・・・・・』
どうやら二人っきりにさせたのは間違いだったようだ。
『それよりタオ。気づいたか?この城内には俺達以外の動物はいないんだぜ。』
『えっ?そういえば・・・廊下を歩いててなんだか違和感を感じたのはそれか!
俺達の時代では城内は動物だらけだもんな。もしかしてこの時代の流行りの使い魔はねずみだったりして?』
キースの問い掛けに俺は今まで感じていた違和感の意味を知った。
廊下ですれ違った人は大勢いたのに動物は見当たらなかったからだ。
『俺の鼻はどこに隠れてたって嗅ぎわけるさ。でもいっさい動物の匂いはしないんだ。』
『そうか・・・動物はいないのか。どうしてだろう?』
こうして廊下にいるだけでもいろんな情報を集められるキースは本当に優秀だ。
こんな不安な状況の中で俺が皆の役に立つことってなんだろう・・・・
そうだった!まず指輪をなんとかしなきゃ・・・・
おもわず目の前が暗くなった俺だった。
「ベルナルド殿下がまさかお妃様をお連れでお戻りになるとは・・・・じいは嬉しゅうございます。
もちろんお部屋はお留守の間もこのじいがちゃんと管理しておりましたゆえ、心配はいりませんぞ。」
エドバンはこの部屋に案内する間もただひたすらに嬉しそうな表情を崩さず、いくら人違いである事を説明しても聞く耳を持たなかった。
「お妃様におきましては、必要な物をすぐにご用意致しますので今しばらくお待ちを・・・
久しぶりにじいは大忙しでございます。では準備にとりかかりますのでこれにて失礼いたします。」
エドバンはそう言うと部屋を後にした。
「参ったなぁ・・・あのエドバンってご老人は我々の言う事をまったく信じませんね。」
アルクはエドバンの頑なまでの態度に呆れていた。
「ご老人ってだいたいが頑固なものよ。それより私はさっそく侍女達の仲間入りをしていろいろ情報を得ようと思うのよ。」
ケイトはまず情報収集が大事であると判断したのだ。もちろんアルクも同様であった。
「さすがケイトさんですね。私もさっそく護衛として衛兵達と接触してみますよ。」
この時代の事は、人々の暮らし振りや城内の人間関係などなんでもいいから知っておく事は必ず役立つはずだ。
チラリとルーチェとルドルフの二人を様子を窺いながらアルクとケイトは部屋を出て行った。
キースは定位置のドアの前での警備をし、ミーアはケイトに付いて行った。
サリーはまた周辺の様子を調べる為に窓から飛び立った。
部屋に残されたルーチェとルドルフの仲はまだギクシャクとしたままだ。
俺もどうやらおじゃまなようだが・・・
こんな時、俺だけが自分がどう動くべきか判断できないのが我ながら情けない。
しかたないので部屋を出てキースの傍に行く。
二人っきりになった部屋の空気は重いものだった。
ルドルフはルーチェと向き合った。
頑なに俯いて顔を上げないルーチェが遠い存在に感じた。
自分はただ温かい空間に包まれていたかった。それはルーチェの存在そのものだ。
それ以外でそんな空間など存在はしなかった。だからこそ変わらぬルーチェでいて欲しかった。
2年の空白は長い。自分の知らないところでルーチェは変わってしまったのか。
いやそんなはずはない。再び出会った時は変わらぬルーチェを確信したはずだ。
では変えてしまったのは自分なのか?守りたい!そう願ったはずの自分なのに・・・・
「ルーチェ・・・それほど私との婚礼が嫌だったのか?私の思いはただの押しつけであったのならすまない。
他に好きな人がいたのだとしたらなおさらの事だ。そんな事も確かめもせずに・・・・」
まったく的外れな事を言い出したルドルフに驚いて初めて顔をあげたルーチェだった。
「他に好きな人ですって?」
「ああ。だとしても今までのように自由な生活は望めはしないだろう。今後は・・・」
「それは私が至高の魔女だからなのね。だからルドは・・・」
「せめて形だけでも私の正妃になれば、城内だけは今まで通り自由に過ごす事ができるし・・・
なんなら正妃の務めも放棄してもかまわない。それは私の方でなんとでもできるから。」
どっちにしても自由がないならばとルドルフにしてみれば最大限の譲歩であった。
王妃教育の講習が辛ければやらなくてもいい、王妃として堅苦しい公式の場にも出なくてもいいとまで思ったからだ。
「それってやっぱり政略結婚じゃないの!」
みごとに逆効果であった。
形だけでも至高の魔女が正妃ならばそれでいいのね。私なんかなにも必要でないって言うの?
やっぱりこの人は私が至高の魔女だから望んだにすぎないのだ。
思いをの押しつけたですって?そこに思いがあったと言うのだろうか・・・・
2年もの間手紙ひとつ寄こす事もしなかったのに。
突然迎えが来て再会したものの、やはりそれっきり・・・
そうよ。アルクさんの様に時間を割いてでも会いに来てはくれなかったじゃないの。
一時でも本気で王家の仕来たりやダンスの講習を受けていた私の気持ちなんてちっともわかってはいない。
では私の存在はいったいなんなのよっ!人形のようにお飾りでいいなんてっ!
やっぱり私など愛されてはいない。あくまで至高の魔女が必要なのだ。
「政略結婚って・・・いったい・・どういうことだよっ?」
最大限に譲歩したというのに返ってきたルーチェの言葉にルドルフは眉を顰めた。
一筋の可能性すら断たれた気がしたルーチェの心はますます殻に閉じこもってしまった。
「ルドなんてっ!大きらいっ!」
「・・・・・・!」
面と向かって告げられた大嫌い発言に明らかに大きな打撃を受けたルドルフだった。
『ところでキースは耳が良いから中の話はみんな聞こえてるんだろ。二人はどうしてる?もう仲直りした頃かな?』
俺はキースに問いかけた。
『ますますややこしい事になってる・・・更に険悪になってるのは間違いないぞ。』
『・・・・・・』
どうやら二人っきりにさせたのは間違いだったようだ。
『それよりタオ。気づいたか?この城内には俺達以外の動物はいないんだぜ。』
『えっ?そういえば・・・廊下を歩いててなんだか違和感を感じたのはそれか!
俺達の時代では城内は動物だらけだもんな。もしかしてこの時代の流行りの使い魔はねずみだったりして?』
キースの問い掛けに俺は今まで感じていた違和感の意味を知った。
廊下ですれ違った人は大勢いたのに動物は見当たらなかったからだ。
『俺の鼻はどこに隠れてたって嗅ぎわけるさ。でもいっさい動物の匂いはしないんだ。』
『そうか・・・動物はいないのか。どうしてだろう?』
こうして廊下にいるだけでもいろんな情報を集められるキースは本当に優秀だ。
こんな不安な状況の中で俺が皆の役に立つことってなんだろう・・・・
そうだった!まず指輪をなんとかしなきゃ・・・・
おもわず目の前が暗くなった俺だった。
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