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雅の空

『雅の空』はみやびのオリジナル小説を掲載しているサイトです。 異世界ファンタジーものを目指しております。 感想などいただけると大変励みになります。 但し、素人が書きましたものですので『くだらない』『面白くない』等の苦情は凹みますので受け付けかねます。 作品は全てフィクションです。実在する団体個人には全く関係ありません。 尚、お話の著作権等は、放棄しておりません。 無断転載等はかたくお断りします。

第9話 通じない心 

至高の魔女2

皇帝陛下から城内に滞在する事を許された俺達はようやくゆっくり出来る部屋に通された。

「ベルナルド殿下がまさかお妃様をお連れでお戻りになるとは・・・・じいは嬉しゅうございます。
もちろんお部屋はお留守の間もこのじいがちゃんと管理しておりましたゆえ、心配はいりませんぞ。」

エドバンはこの部屋に案内する間もただひたすらに嬉しそうな表情を崩さず、いくら人違いである事を説明しても聞く耳を持たなかった。

「お妃様におきましては、必要な物をすぐにご用意致しますので今しばらくお待ちを・・・
久しぶりにじいは大忙しでございます。では準備にとりかかりますのでこれにて失礼いたします。」

エドバンはそう言うと部屋を後にした。

「参ったなぁ・・・あのエドバンってご老人は我々の言う事をまったく信じませんね。」

アルクはエドバンの頑なまでの態度に呆れていた。

「ご老人ってだいたいが頑固なものよ。それより私はさっそく侍女達の仲間入りをしていろいろ情報を得ようと思うのよ。」

ケイトはまず情報収集が大事であると判断したのだ。もちろんアルクも同様であった。

「さすがケイトさんですね。私もさっそく護衛として衛兵達と接触してみますよ。」

この時代の事は、人々の暮らし振りや城内の人間関係などなんでもいいから知っておく事は必ず役立つはずだ。
チラリとルーチェとルドルフの二人を様子を窺いながらアルクとケイトは部屋を出て行った。

キースは定位置のドアの前での警備をし、ミーアはケイトに付いて行った。
サリーはまた周辺の様子を調べる為に窓から飛び立った。

部屋に残されたルーチェとルドルフの仲はまだギクシャクとしたままだ。
俺もどうやらおじゃまなようだが・・・

こんな時、俺だけが自分がどう動くべきか判断できないのが我ながら情けない。
しかたないので部屋を出てキースの傍に行く。

二人っきりになった部屋の空気は重いものだった。
ルドルフはルーチェと向き合った。

頑なに俯いて顔を上げないルーチェが遠い存在に感じた。
自分はただ温かい空間に包まれていたかった。それはルーチェの存在そのものだ。

それ以外でそんな空間など存在はしなかった。だからこそ変わらぬルーチェでいて欲しかった。
2年の空白は長い。自分の知らないところでルーチェは変わってしまったのか。

いやそんなはずはない。再び出会った時は変わらぬルーチェを確信したはずだ。
では変えてしまったのは自分なのか?守りたい!そう願ったはずの自分なのに・・・・

「ルーチェ・・・それほど私との婚礼が嫌だったのか?私の思いはただの押しつけであったのならすまない。
他に好きな人がいたのだとしたらなおさらの事だ。そんな事も確かめもせずに・・・・」

まったく的外れな事を言い出したルドルフに驚いて初めて顔をあげたルーチェだった。

「他に好きな人ですって?」

「ああ。だとしても今までのように自由な生活は望めはしないだろう。今後は・・・」

「それは私が至高の魔女だからなのね。だからルドは・・・」

「せめて形だけでも私の正妃になれば、城内だけは今まで通り自由に過ごす事ができるし・・・
なんなら正妃の務めも放棄してもかまわない。それは私の方でなんとでもできるから。」

どっちにしても自由がないならばとルドルフにしてみれば最大限の譲歩であった。
王妃教育の講習が辛ければやらなくてもいい、王妃として堅苦しい公式の場にも出なくてもいいとまで思ったからだ。

「それってやっぱり政略結婚じゃないの!」

みごとに逆効果であった。
形だけでも至高の魔女が正妃ならばそれでいいのね。私なんかなにも必要でないって言うの?

やっぱりこの人は私が至高の魔女だから望んだにすぎないのだ。
思いをの押しつけたですって?そこに思いがあったと言うのだろうか・・・・

2年もの間手紙ひとつ寄こす事もしなかったのに。
突然迎えが来て再会したものの、やはりそれっきり・・・

そうよ。アルクさんの様に時間を割いてでも会いに来てはくれなかったじゃないの。
一時でも本気で王家の仕来たりやダンスの講習を受けていた私の気持ちなんてちっともわかってはいない。

では私の存在はいったいなんなのよっ!人形のようにお飾りでいいなんてっ!
やっぱり私など愛されてはいない。あくまで至高の魔女が必要なのだ。

「政略結婚って・・・いったい・・どういうことだよっ?」

最大限に譲歩したというのに返ってきたルーチェの言葉にルドルフは眉を顰めた。
一筋の可能性すら断たれた気がしたルーチェの心はますます殻に閉じこもってしまった。

「ルドなんてっ!大きらいっ!」

「・・・・・・!」

面と向かって告げられた大嫌い発言に明らかに大きな打撃を受けたルドルフだった。

『ところでキースは耳が良いから中の話はみんな聞こえてるんだろ。二人はどうしてる?もう仲直りした頃かな?』

俺はキースに問いかけた。

『ますますややこしい事になってる・・・更に険悪になってるのは間違いないぞ。』

『・・・・・・』

どうやら二人っきりにさせたのは間違いだったようだ。

『それよりタオ。気づいたか?この城内には俺達以外の動物はいないんだぜ。』

『えっ?そういえば・・・廊下を歩いててなんだか違和感を感じたのはそれか!
俺達の時代では城内は動物だらけだもんな。もしかしてこの時代の流行りの使い魔はねずみだったりして?』

キースの問い掛けに俺は今まで感じていた違和感の意味を知った。
廊下ですれ違った人は大勢いたのに動物は見当たらなかったからだ。

『俺の鼻はどこに隠れてたって嗅ぎわけるさ。でもいっさい動物の匂いはしないんだ。』

『そうか・・・動物はいないのか。どうしてだろう?』

こうして廊下にいるだけでもいろんな情報を集められるキースは本当に優秀だ。
こんな不安な状況の中で俺が皆の役に立つことってなんだろう・・・・

そうだった!まず指輪をなんとかしなきゃ・・・・
おもわず目の前が暗くなった俺だった。





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第8話 疫病 

至高の魔女2

銀白の髪は王家の証。強い魔力を持って生まれたとしても王家でなければただの白髪でしかない。
強い魔力を持つ者同士の婚姻が代々と受け継がれ、その血筋には強大な魔力が脈々と積み重ねられたのだ。

その結果が銀白の髪という形となって現れたのだ。それゆえ王家の者は生まれ乍らにして強大な魔力を持つ。
それは長い長い年月をかけて培われたものなのだ。

「私はルドルフと申します。皇帝の座についてまだ年月も浅いですが、この銀白の髪はまぎれもなく王家の者。
陛下の代で終わるなどとは杞憂としか思えませんが・・・・」

確かにルドルフの言う通りだ。
王家ならばたとえ後継ぎが途絶えようともその皇族から養子を迎えればいいだけの事だ。

実の親子でなかろうとその血筋が途絶える事などありえないだろう。

「15年もベルナルド殿下の行方が分からぬとはいったい何故なのでしょうか?」

「15年前・・・・この帝都に恐ろしい流行り病が蔓延してそれは多くの犠牲が出たのじゃ・・・」

ルドルフの問いかけに陛下は15年前を思い出すように遠い目をしてぽつりぽつりと語り始めた。

帝都で蔓延した疫病はこの城内でも猛威を振るった。皇族達もバタバタと病に倒れた。
その死者の数ははかりりかねないものとなったのだ。

特に若い者ほどその進行は早く、将来有望な若者が多くを占めた。
それを危惧した皇帝は、後継ぎである皇太子のベルナルドを帝都から遠く離れた場所へと避難させる事にした。

当時まだ疫病が蔓延していない北都へと向かわせたのだった。
ベルナルドの目的は避難だけではなかった。

全国的に蔓延している疫病なのになぜか北の地にだけは疫病は発生していなかったからだ。
疫病が発生しない地の理なのか、それともその地に住む民の体質には何か疫病を撥ねつける力を持つのか・・・

なんらかの原因があるはずだ。
ベルナルドはそれを調査する為に北都に向かったのであった。

北都に着いて調査を始めた頃にはまだ連絡はあったと云う。
最後の連絡は、原因はオリポテンス山にあるらしいのでこれから向かうと言うものだった。

なんらかの手がかりを掴んだのであろうと思われた。
だが、それっきりベルナルドからの連絡は途絶えた。

その後ベルナルドの身を案じた皇帝はオリポテンス山へ捜索隊を派遣するが、見つかったのは賊に襲われたと思われる大破した馬車と護衛の兵士達の死骸であった。

残念ながらベルナルドの死骸は見つかる事はなかった。
あれほどの魔力と剣の達人であるベルナルドと精鋭の護衛達がたかが山賊ごときに全滅するとは、どう考えても腑に落ちない皇帝であった。

ほどなくして、あれほど猛威を振るっていたはずの疫病は不思議な事にピタリと治まった。
しかし、その時には既に皇族も皇帝を含めて高齢の者がわずかに生き残っただけであった。

それにより生き残った王家を引き継ぐべき若者は皇太子のベルナルドただ一人となった。
だが王家存続の唯一の希望であるベルナルドはその生死すら確認出来なかった。

「我はベルナルドは必ず生きていると信じ帰りを待ち続けたが、今日まで帰っては来なかった。」

陛下は寂しそうに眼を閉じ、最後にそう締め括った。
それは皇帝と言うよりは息子を案じる一人の父親の姿であった。

「そなたを見た時、すぐに別人であると気づきはしたが、あまりに当時のベルナルドに生き写しである事に驚いた。
しばしの間ではあったがベルナルドと会えた喜びを与えられた事に感謝しよう。」

「そのような事情があったとは・・・・
だが私はそれでもなんらかの王家存続の糸口があるような気がしてならないのです。」

「そうよ!このまま王家が滅亡するなんてありえないわ。
私はずっと王家の歴史を勉強していたけれど、そんな記録は無かったわ!」

ルドルフの言葉に同調するようにルーチェはつい口走ってしまった。
余計な事を言ってしまったとあわてて両手で口を塞ぐがあとの祭りである。

「ほう・・・歴史を?わが名はサミエルと言うのだが、私が最後の皇帝ではないのか?
まだこの王家にはなんらかの光が差すという事であろうか・・・・」

サミエル陛下はそう言いながらルーチェの方を見て期待に目を輝かせた。
この時代ではルーチェの衣装がウェデングドレスである事に気づいているかどうかは分からないが、明らかに豪華な衣装であるのは明白だ。

「この姫がルドルフ殿の正妃であるのだな?そうか・・・そうなのだな。」

サミエル殿下はふむふむと頷きながらなにやら自己満足しているようだ。

『おい。陛下はなにか勘違いしてないか?
まさかルドとルーチェがこの世界に残って後継ぎを・・・なんてことを?』

「えっ?ええ~~!だって私達はまだ結婚もしてないのに?」

ルーチェはあわてた。そ・・・それについさっきお断りしたばっかりだ。
この騒ぎですっかり忘れていた事を思い出したルーチェだった。

同時に心の痛みも思い出したのか急にしょんぼりと下を向いて黙ってしまうのだった。

「当り前よ!それに私達はなんとしても帰らなきゃいけないのよ。」

傍にいたケイトが付け加える。
そうだった。俺達はなんとしても双子星が重なる前に帰らないと危険なのだ。

「確かにルーチェは私の正妃と決めた者ではありますが、我々には帰られねばならぬ世界があります。
まだ帰る手段が見つかってはおりませんが・・・」

ルドルフはやんわりとサミエル陛下の思いを断ち切ろうとした。
だが、正妃と勘違いしたサミエル陛下の誤解を解こうとはしなかった。

陛下の勘違いを否定する事はルーチェの断りを受け入れる気がしたルドルフだった。
それはルドルフのルーチェの拒否に対する最後の抵抗のように俺は思った。

「そ・・そうか。やはり帰らねばならんのか。だが、帰る手段が見つからぬのではな・・・
ならば客人としてもてなそう。必要なだけ滞在するがいい。そちらの共の者も遠慮はいらんぞ。」

サミエル陛下もなかなかのものだ。その瞳にはまだ諦めてはいないようすが窺えた。
すっかりお供の護衛と侍女だと決めつけられたアルクとケイトであった。

「どうやら我々は紹介もなしのようですね。まあそれどころではないのでしょうが・・・」

「その方が自由に動けていいかもしれないわよ。侍女ごっこもおもしろそうね。」

小さな声でぶつぶつ不満を唱えるアルクとやる気まんまんのケイトであった。

「そうだ!明日は歓迎の宴を催そう!それまでゆるりと過ごされよ。」

そう言って陛下は部屋を後にした。
長く緊張した時間を過ごした俺達は本当に疲れていた。

陛下の言うように一刻も早くゆるりとしたいと心から思ったのであった。







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第7話 王家の衰退 

至高の魔女2

どうやらルドルフは誰かと間違われているようだ。

「ご無事でなによりでございます。陛下もさぞお喜びになりましょう。」

老齢の男はルドルフをしげしげと眺めていた。その目には涙すら浮かべている。

「し・・しかしエドバン様・・・」

傍にいた兵士達はお互いに顔を見合わせながらなにやら困惑している様子であった。

「すぐ陛下にお帰りのご報告を・・・ささ、こちらでございます。」

エドバンと呼ばれる男はうやうやしく俺達を陛下の元へ案内しようとした。

『このまま付いて行くしかないだろう。しばらく様子をみよう。』

ルドルフが皆にテレパシーで意思を伝えてきた。
俺達はそのまま黙ってエドバンの後ろに付いて歩く。後ろにはさっきの兵士達が続く。

長い廊下を歩く俺達を見て、すれ違う侍女達は驚いた様に動きを止め振り返りいつまでも見ていた。
そんな周りの人々の様子を見ながら俺はなんだか違和感を感じていた。

階段を下り謁見室に入った俺達はそこで陛下のお越しを待つように言われた。
兵士達は持ち場に帰りエドバンはおそらく陛下に報告に行ったのだろう。

ルドルフはこれから先を、どう対処すべきか考え込んでいるようだった。
本当の事を言っても信じてもらえるかどうか・・・・

だが残念ながらゆっくり考える時間は与えて貰えなかったようだ。
時を置かずしてバタバタと足音がした。よほどあわてて駆け付けて来たようだ。

衛兵と共に現れたのは立派な装いの老齢の紳士であった。どうやらそれが陛下であるらしい事は一目でわかった。
エドバンよりは少し若いかと思われるが銀白の髪を肩まで伸ばし、皺は目立つが整った顔立ちである。

部屋に入って来た陛下は俺達を見回すようにしてから、その視線はルドルフに止まった。
そして一瞬驚いた表情を見せて固まった。

「ベルナルドです。ただ今帰りました。」

ルドルフはつかつかと陛下の前に近づくとうやうやしく跪いた。

「ベルナルド!顔をあげてもう一度・・・」

陛下は跪いたルドルフの肩に手を起き立つように促した。
立ち上がったルドルフと陛下はお互いを確かめるように長い間見つめあっていた。

俺達はこのまま騙し通せたのかと期待した。
だがその時、陛下の顔がふっと歪み肩を落とした。

「お客人・・・どこから来られた?」

『バレた!ど・・どうするんだよ。』

ルドルフはハッと驚き、その場にいた全員が緊張した表情で立ち竦んでいた。
ヤバいぞ。俺達よりにもよって皇太子殿下の名を騙っちまったんだ!

「申し訳ありません。ベルナルド殿下の名を騙ったのは悪気があった訳ではなく・・・・
真実を話しても信じて貰えず混乱を招くだけだと思いまして。」

ルドルフはもう一度跪き、真摯な態度で陛下に詫びた。
もはや牢に入れられるか、へたをすれば絞首刑ってこともあるかもと俺はビビった。

「話をする前から信じて貰えぬと決めつけるのか。その姿だけでも十分驚かされてはいるがな。
なにか相当な訳がありそうだが・・・・まずは話してみてはどうかな?」

陛下は穏やかな口調でそう言った。その物腰もやわらかく、表情は優しげだ。
あれ?もしかしてこの陛下って話のわかる奴かもしれない・・・

「突然現れた得体の知れない我々の話を聞いて下さるのですか?」

膝まづいたまま顔をあげたルドルフは信じられない表情で陛下を見上げた。

「その服装といい、立ち居振る舞いといい、なによりその髪の色・・・・銀白の髪は王家の血筋の証。
ベルナルドにそっくりなそなたは一体何者なのか。話を聞く価値はあるであろう?」

陛下は落ち着きを取り戻した様子でゆっくりと中央の王座に腰かけた。
ルドルフは全てを話すしかなさそうだと腹を括った。

「実は・・・我々は千年後の未来から、ある魔力によりここへ導かれて来た者です。
こんな突拍子もない話などにわかには信じて貰えないでしょうが・・・・」

いくらなんでも、いきなり核心からって・・・それは信じろと言っても無理だろうと俺は思った。

「なんと!千年後にはそんな魔力が使えるようになると言うのか?」

・・・・・・・どうやらすんなり信じてくれたみたいだ!ありえない!

「その服装・・・そんな生地は見たこともない。なんとも不思議な布であるな。」

なるほどルドルフの服装は謁見の途中だっただけにその高級な生地に刺繍が見事に施された正装だ。
アルクとケイトにしても普段着とはいえ、その身分にふさわしい高級な装いである。

ルーチェに至ってはウェディングドレスにティアラの細工も見事なものだ。
問題はその足元が裸足であるという事以外は・・・・

そう言われてみればこの陛下の服装もりっぱには見えるがいろいろな生地をただ腰のあたりでベルトで纏めているだけのようで縫製はなされていないようだ。生地もまだまだ目の粗いものである。

縫製や織物の技術がまだそれほど進んではいないのだろう。
千年前の人達からみれば俺達の服装はあきらかに違いすぎるのだ。

おそらくは賢明な陛下なのだろう。
話を聞く前からどこか異界の雰囲気を持つ俺達を見て、そのあたりは想定内だったのかもしれない。

「見たこともないその装いや装飾品などから、未来の者だと信じよう。
しかし、ただ一つ・・・王家がそれほど先まで栄えるとは信じられない。」

それまで目を輝かせてルドルフの服装を見ていた陛下だったが、そう言った瞬間その表情に陰りが差した。

「なぜなら、おそらく王家は私の代で途絶えてしまうのだから。」

そんな!この時代の王家はそこまで衰退しているというのだろうか?
だとしたら俺達の時代の王家は・・・ルドルフの存在すらありえないじゃないか!

「それは・・・何故でしょうか?陛下には・・・・」

ルドルフは言葉に詰まった。自分がその名を騙ってしまったベルナンド殿下。
そんな後継ぎががおられるはずなのに・・・

「ベルナルドが行方知れずになったのは15年も前だ。そなたは当時のベルナルドに瓜二つなのだよ。
ベルナルドさえ居てくれれば・・・・」

「15年前!」

騙せようはずもなかったのだ。
ベルナルド殿下は生きていれば30代後半だったのか!

なのになぜあのエドバンは・・・・
思い起こせば、あの兵士達の困惑や侍女達の驚きの意味がようやくわかった俺達だった。



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第3話 これが現実です 

明るい未来の作り方

窓から明るい日が差し込む。昨日とはうって変わっていい天気だ。
裕香は眩しさで目が覚めた。

そうか・・・昨日はカーテンも締めずに眠ってしまったようだ。
変な夢を見たせいか、頭が重い。

今日も仕事だ。週末はまだまだ遠い。
でも受付の仕事は身だしなみが第一だ。化粧だって手を抜くわけにはいかない。
けだるい体を気力で動かし、ペッドから這い出した裕香だった。
まったく昨夜の夢は最悪だわ。あんな夢を見るなんてよほど体調でも悪かったのかしら?

ああ・・そうか、昨日は雨に濡れたからなぁ・・・・

「でも考えてみれば笑えるよねぇ・・・ミクさ~んなんてさ。」

裕香は昨日の夢を思い出しながら一人呟いた。

「は~い!呼んだ?」

台所の方からひょっこり顔を出したのはミクさんだった。
な・・・・なんで!

驚いて仰け反った裕香はバランスを崩して尻餅をついた。
あれは夢じゃなかったの?

「驚かせたのはもう昨日謝ったじゃない。そう何度も驚かれてもねぇ・・・・・」

驚くのは当たり前じゃない・・・あれが夢じゃなかったなんて!
まぎれもなくこれが現実だって言うの?

「ほ~ら、朝食作っておいたからさ。ねね・・私が居て便利な事だってあるでしょ?」

「私は朝食は食べない主義なの!」

「ああ・・それね。やめた方がいいわよ。
若いうちはいいけどさ、そんな生活をあと3年も続ければ顔色はくすむわ貧血が起こるわでさ・・・・
そりゃあ私は辛い思いをしたもんよ。」

ミクは裕香の背中を押すようにして食卓に座らせた。
食卓にはコーヒーとパンとヨーグルトサラダが2人分セットされていた。

「ねえ・・・昨日もちょっと思ったんだけど。ミクさんは幽霊なのに食事するの?確かりんご食べてたよね?」

「そうなのよ。なぜかお腹が減るのよね~。で普通に食べれるし・・・まっいいんじゃない?」

「冗談じゃないわよっ!2人分の食費だなんてありえないわよ!」

「あら・・結構セコいのね。じゃあバイトでもしようか?」

「え?・・その姿で?・・・・ダメダメうちの会社はバイト禁止なんだからね」

「じゃあ・・・しょうがないじゃない。養ってもらうしかないわね。よろしくね!」

「ええ~~!」

露骨に不満を顔に出す裕香であったがミクは気にする様子もない。

「ところで今日はまっすぐに帰ってくる?」

「え・・え~と・・・今日は定時に終わるので仕事帰りにデートの約束が・・・」

コーヒーを飲みながら答えた裕香だった。
ミクはカレンダーを見ながら何かを思い出すように考え込む。

「確か・・・この時期に付きあってたのって・・・遠山 要だっけ?」

「ピンポ~ン!そう。私と要は今ラブラブよ~!人も羨むカップルと言うかなんて言うか・・・」

要を思って夢見るような瞳で語る裕香であった。
そんな裕香に釘を刺すようにはっきりとミクは言いきった。

「ダメよ!あいつは最低の男よ!考えてみれば要のせいよ。あれから私の人生はおかしくなったんだわ!」

「はあ?何を言ってるのよ。私達は将来を真面目に考えた付き合いをしているのよ?」

突拍子もないミクの言葉に激怒して反論する裕香だった。
だって今最高にうまくいってる恋人の要の悪口を言われて怒らない方がどうかしている。

「あいつはとんでもないヒモ男よ。定職も持たずブラブラして、人の金でパチンコ狂い。
おまけに女好きでどうしようもない奴よ。」

「そ・・そんなこと!ある訳ないじゃない。何を根拠にそんなことを!」

裕香はミクのあまりの言い草に怒りでワナワナと震えながらくってかかってきた。

「要とは2年間同棲していたわ。あいつは定職も持たずに毎日パチンコ代を私にせびっていたのよ。
それでも私は要がちゃんと就職さえしてくれたらいつかは結婚できると信じていたわ。
でも要は仕事を探すどころか他に女を作って私が貢いだお金で遊び呆けていたのよ。
ある日仕事から帰って来たら要は消えていたわ。私の貯金、貴金属、部屋の中の金目の物も一切合財すべて一緒にね。」

「・・・・・・・」

裕香はひどくショックを受けたようで口を開けたまま固まっていた。
ミクはちょっと言い過ぎたかなぁと反省した。
だって話てるうちにその時の悔しさとか情けなさを思いだしてちょっと興奮したみたいだ。
そんな地獄を経験した私とまだ経験していない私・・・・・
明るい未来しか考えた事もないまだまだ純真だった頃の私なのだ。

「あ・・ほら仕事の時間!遅刻しちゃうわよ!」

ミクはそう言うと裕香を急かし立てて話を打ち切った。
裕香はバタバタと大急ぎで支度を整え、今日はいつもより少し手抜きの化粧で仕事に出かけて行ったのである。



















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第6話 導き 

至高の魔女2

俺はミーアに追い回され、サリーからは上空から突かれ最後にはキースに前足で押さえつけられて捕まった。
押さえつけられたままの俺をアルクは大きく口を開けさせ指を突っ込み、あげくには俺を持ち上げ逆さまに振った

『動物虐待だぞー! 訴えてやる~!
オエッ~!』

「ダメです。出ませんね。途中に引っ掛かってないかと思ったんですけど・・・・
すっかり奥まで呑み込んじゃってますね。」

ようやく解放された俺を皆は白い目で見ていた。
どうやら俺の体の通過待ちとなったようだ。

「でもたとえ鏡にあの指輪が映ってかざしたようになったとしても、誰も望みを唱えてないのにどうしてこんな事に・・・」

ケイトがそう言いながら首をかしげた時、ルーチェが顔を歪めた。

「そ・・それが・・・私が・・・どこか遠くに消えてしまいたいって・・・・あれってもしかして?」

「おそらく・・・そうだろうな。
タオが指輪を鏡にかざし、ルーチェが望みを告げケイトが呪文を唱えたと言う事だ。」 

ルドルフは腕を組んで考え込んだ。

「でもそんなに偶然って重なるものですか?
私がケイトさんに渡した書籍はたまたま手に取っただけにすぎないですし・・・」

アルクはそんな考えを否定するように言った。

「なんだか何かに導かれた気がするわ。この書籍には何か秘密でもあるんじゃないかしら?
女性が書いたものって事だけど、どこかに名前はないの?」

ケイトの言葉にルドルフはパラパラと書籍のページをめくる。

「えーっと・・・消えかけてはいるが、これじゃないかと・・・レ・・イ・・シ・・ア・・・
レイシアだな・・・あとは読めない。」

「レイシア?レイシアですって?」

ルーチェは聞き覚えのある名前にピクンと反応した。
その名前は忘れもしない。夢に出てきた少女だ。

「神殿の至高の魔女の像!あの少女が夢に現れてそう名乗ったわ!
レイシアが至高の魔女なら、王宮に日記が残っていても不思議じゃないでしょ?」

「それはそうですが・・・そのレイシアが我々を導いたのだとすれば、ここは千年前ってことになっちゃいますよ?」

アルクはなにげなく言った事だが・・・・全員が沈黙した。
千年前・・・てことは・・・・また双子星が重なるの?!

俺達は一斉に窓の外を確かめた。
そこに見えたのは明らかに近い位置にいる双子星だった。

その時、バタンと扉の開く音がした。

「何者だ?こんなところで何をしている!」

警備の兵士達が数人バタバタと入って来た。
俺達の話声に気づいたのだろう。

剣を向けられ俺達は囲まれた。
すばやくキースは戦闘態勢に入って間合いを見計らう。

兵士達もキースの迫力に怯んでそれ以上は近寄れないようだった。
そのまま暫く睨みあいが続いていた。

「これは・・・!皆、剣を引け!」

兵士の後ろから声がして老齢の男が一人前に出てきた。
兵士の物々しい服装とは違い、ずいぶんと優雅な装いであった。

「ようやくお戻りになりましたか。ベルナルド殿下。お帰りをお待ちしていました。」

男はルドルフの前まで来ると跪きそう言ったのであった。
兵士達はそれを聞いてあわてて剣を引き、同じように跪いた。

『え・・・ええ~~!ベルナルド殿下って誰?いったいどーゆうこと!』

俺はこの展開について行けずに周りを見回した。
どうやら全員がそうだったらしく、きょとんとした表情でただ立ちすくんでいた。








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